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英国ロイヤルバレエinシネマ〜『不思議の国のアリス』

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。その後制作会社を経て、フリーのラジオディレクターとして主にクラシック音楽系の番組企画制作に携わるほか、番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど多方面に活躍。2022年株式会社ラトル(ホームページ)を立ち上げ、様々なプロジェクトを始動中。

METライブビューイングと並び、日本にいながらにして映画館のスクリーンで本場のエンターテイメントが鑑賞できる英国ロイヤル・バレエ&オペラinシネマ。バレエとオペラの両方がラインナップされているので、私も毎シーズンとても楽しみにしている。2024/2025シーズンから名称が変更されていることからも、よりバレエに比重を置いた印象だ。

今季最初のバレエは英国の作家ルイス・キャロルが書いた童話「不思議の国のアリス」を題材としたもの。世界で愛される童話なだけに近年では世界各国のバレエ団で取り上げられる人気作となっている。私はまだ観たことがなかったが、日本の新国立劇場でも上演されている。振付はクリストファー・ウィールドン。ブロードウェイ・ミュージカルの「パリのアメリカ人」を手掛けたことでも知られる。そしてロイヤル・バレエが誇る4人のプリンシパルが個性豊かな役どころで登場するのも注目である。

2011年全幕新作として16年振りに初演された「不思議の国のアリス」だが、原作同様、魅力ある不思議なキャラクターがたくさん登場する。白うさぎ、ハートの女王、マッドハッター、ハートのジャック…それぞれ役の個性を際立たせる振り付けはもちろん、音楽も重要な要素だ。ウィールドンとタッグを組んだのが映画音楽でも活躍するジョビー・タルボット。このコンビは「赤い薔薇ソースの伝説」や「冬物語」などでもタッグを組んでいる。親しみやすく生き生きとした音楽は、ファンタジックなバレエに鮮やかな色彩を加える。

しかしルイス・キャロルの人気童話の世界観はそのままに、尚且つ大人も楽しめる洗練されたエンターテイメントとしてアレンジするのは、いくつもの傑作を生み出してきた振付家のウィールドンでさえ、なかなか難しいと感じていたようである。そこにトニー賞受賞の美術のボブ・クロウリーが加わり、大胆なプロジェクションマッピングを駆使した舞台演出で「不思議の国」を作り上げた。これが冒頭からビジュアルとして飛び込んできて即座に惹き込まれる。またダンサー達の限りなく演劇に近い表情と動きで、ミュージカルでも見事な舞台を作り上げる彼ならではの、息もつかせぬほど目を釘付けにする舞台は必見。

icon-youtube-play ロイヤルバレエ「不思議の国のアリス」

またヒロインが数々のキャラクター達と出会い、ストーリーが展開していく舞台は、チャイコフスキーの名作バレエ「くるみ割り人形」を思わせ、バレエ作品としては見せ場も作りやすく、王道のフォーマットといえるかもしれない。またそうした過去の名作バレエのオマージュともなるパロディがそこかしこに散りばめられているので、通のバレエファンには一層楽しめることだろう。

ダンサーも多彩。ヒロイン、アリスを演じるのはケニア出身のフランチェスカ・ヘイワード。2020年の映画「キャッツ」では子猫のヴィクトリアを演じてスクリーンデビュー、顔立ちが俳優のナタリー・ポートマンに似ているせいか、少女のような純真さとコケティッシュな魅力を同時に称えている。原作では7歳のアリスだが、ここでは少し大人の15歳の少女となって庭師のジャックと恋に落ちるが、少女と大人の間のアリスを表情豊かに演じてみせ、とても魅力的。ほぼ全部のキャラクターと絡むのでかなりスタミナも必要だが、終始軽やかな身のこなしも見事だ。

icon-youtube-play フランチェスカ・へイワード

彼女と恋に落ちるジャックを演じるのはウィリアム・ブレイスウェル。これぞ英国紳士、といった品格を感じさせる優雅な佇まい。アリスと二人のパ・ド・ドゥはクラシック・バレエの真髄を見せてくれる。

ワンダーランドのキャラクター達も個性豊か。マッドハッター役は初演時にも同役を演じたプリンシパルのスティーブン・マックレー。大怪我を乗り越え見事なタップダンスを披露し、クラシック・ダンサーとしてはかなり逞しいボディにカラフルで煌びやかな衣装を纏い、クレイジーなキャラクターを演じ切る。

icon-youtube-play マッドハッターのお茶会


※1分20秒から

またアリスの母親とハートの女王として登場するのが、2011年の初演で可憐なアリスを演じたローレン・カスバートソン。真逆のキャラクターをユーモアたっぷりに演じていてその迫力に圧倒される。トゥシューズまで真っ赤な衣装も見どころ。幕間では初演時にハートの女王役だったゼナイダ・ヤノウスキーも登場し、受け継がれる役柄のバトンと新旧ダンサーの交流なども垣間見れる。

icon-youtube-play ハートの女王

その幕間に入る時、舞台幕の可愛らしいデザインも秀逸だったことも付け加えておこう。シネマの司会はやはりかつてバレエ団のプリンシパルだった地元ロンドン出身のダーシー・バッセルが登場。ハートの女王を思わせる赤のワンピースで、現役時代と変わらぬ引き締まったスタイルを維持していて同世代としては羨ましい。

英国ロイヤル・バレエ&オペラinシネマ2024/2025、次の作品は23/24シーズンの再上映の「くるみ割り人形」を挟み、2月21日(金)からはバレエ「シンデレラ」が始まるとのことで、こちらも必見である。

icon-youtube-play 英国ロイヤルバレエ&オペラinシネマ2024/25予告編

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