

RADIO DIRECTOR 清水葉子
フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)
連休前半のバタバタが少し収まった頃、私もようやく休日モードになってきた。そんなゴールデンウィーク後半の音楽イベントと言えば、ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2018である。1995年フランスの港町ナントから始まったこの音楽祭は、1公演約45分間。それ故に有料公演の価格も2、3千円ほど。ビッグネームから若手まで一流のアーティストが会場のあちこちで同時多発的にコンサートを繰り広げるという画期的なイベントである。これを東京に持ってきたのがラ・フォル・ジュルネTOKYO。毎年開催されている東京国際フォーラムのある丸の内エリアの他、今年は池袋にもエリアを拡大。全部で400公演近くが行われる。かなりクラシック音楽業界では話題の音楽祭なのだが、毎年私は連休前の忙しさにスケジュールが見えない状態なので、聴けてもせいぜい1、2公演。しかし今年は直前に「少し連休後半動けそうだぞ」と思い、慌ててチケットを購入した。まぁ、そんな感じなので既に売り切れの公演もたくさんあって、その中からうまくコンサートをハシゴ出来るように公演をピックアップするのも難しいのだが、3日に3公演、4日に2公演、行くことにした。
しかし急に思い立ってスマホでチケットを購入したものだから、いろいろ失敗があった。公演数が多いため、それぞれのコンサートは公演番号が付いていて、しかも今年は池袋と丸の内と会場が分かれているので、T112とかM122とか紛らわしいのである。最初の失敗は日付を間違えてしまったこと。4日のつもりが3日の同時間帯のチケットを買ってしまった。3日は同時刻の別の公演を聴くつもりでチケットを買っていたので、物理的に無理。仕方ないのでこれは知り合いに譲って行ってもらうことにした。
そんな失敗もありつつ、取り敢えず3日の昼公演からスタート。まず池袋の東京芸術劇場コンサートホールで行われる、井上道義指揮、兵庫芸術文化センター管弦楽団の演奏するヒンデミットの交響曲「画家マティス」を目当てに出かけた。しかし、ここでもまた自分のミスに気付いた。チケットを見ると(チケットに公演名は書いていない)シアター・イーストと書いてあるではないか。よくよく確認しなかった自分もいけないのだが、直前にチケットをとったので出かける当日にコンビニでチケットを引き換えていて、よく見ていなかったのである。これも同時刻に行われるT122、私が行こうと思っていたのはT112。似ているとはいえ、痛恨のミスである。一応現地には20分前に到着するつもりで出発したので、当日券を買えばなんとかなるだろう、と思っていた。しかし実際会場に着いてみると、かなりたくさんの人が当日券売り場に並んでいる。この列に並んで果たして12時の公演に間に合うのか? 係りの人が「次の公演を希望の方にはお急ぎ用の別のカウンターを設けています」とのことだったので、そちらに並んだ。しかし一人当たりの対応が意外と長く、時間はどんどん過ぎていく……。いっそのこと間違えて買ってしまった公演を聴こうかとも思った。木管五重奏によるヴァイルの「三文オペラ」からと、もう一曲は同じヒンデミットだし。しかし私は「画家マティス」を聴きたかった。井上道義の指揮も楽しみだったし、やっぱり初志貫徹だ! と思った頃、ようやく私の番がきた。しかし時刻は既に12時を過ぎている。「入場制限がかかると思いますのでご了承下さい」と告げられ、1曲目は諦めなければならなかった。まぁ仕方ない。悪いのは自分だし、序曲「エロスとプシュケ」も面白そうだけど、やはり聴きたかったのは交響曲だ。
ヒンデミット:序曲「エロスとプシュケ」
ようやく遅れてコンサートホールに入ることができた。ちょうど序曲が終わり、指揮者の井上さんが今演奏を終えたばかりの序曲の解説をしているところだった。うーん、でもやっぱり序曲も聴きたかったな。しかしその後の交響曲「画家マティス」は格別だった。ヒンデミットは晦渋な作風の作曲家、というイメージも強いが、中声部を担うヴィオラ奏者でもあり、またオーケストラの全ての楽器をほぼ演奏することが出来たというだけに、その音作りのバランス感覚が最高なのである。
ここでいう「画家」とは16世紀ドイツのマティス・ゴートハルト・ナイトハルトのこと。いわゆるフォービスムのフランスの画家、アンリ・マティスではない。この曲は同名のオペラもあり、その内容により、政治的な弾圧から音楽家として失脚を余儀なくされる、いわゆる「ヒンデミット事件」にもつながる作品。この辺りの歴史的な事情についてはややマニアックなので今回は省く。何しろ音楽が美しいのは言うまでもないのだが、楽章のタイトルも美しい。「天使の合奏」「埋葬」「聖アントニウスの誘惑」と、それはマティスの『イーゼンハイム祭壇画』に基づくものだ。絵画的な描写はどこか映画音楽のようでもあり、普段クラシック音楽を聴きなれない人にも気に入ってもらえるのではないだろうか。
ヒンデミット:交響曲「画家マティス」
さて、いろいろ失敗から始まった私の今年のラ・フォル・ジュルネだが、次回は引き続きコンサートについて書こうと思う。
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