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ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート2020

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

2020年、令和2年が明けた。

毎年年末にバタバタと簡単なお節料理だけは作るので、それをつまみながらウィーンフィルのニューイヤーコンサートの中継を鑑賞するというのがスタンダードな私の元旦の過ごし方である。

そのウィーンフィルのニューイヤーコンサートはクラシック音楽ファンにとって新年の定番行事なのは言うまでもない。1939年にクレメンス・クラウスの指揮で始まってから現在では全世界90カ国以上に生中継され、更にそのライブ音源はCDなどでスピード発売される。1987年のカラヤン以降は毎年指揮者も変わり、現代を代表する一流の顔ぶれが揃う。今年はラトビア出身、まだ40歳を超えたばかりのアンドリス・ネルソンスというのも話題である。ネルソンスは現在ボストン交響楽団の音楽監督や、ライプツィヒのゲヴァントハウス管弦楽団でカペルマイスター(楽長)を務めるなど、大活躍の俊英。既にウィーンフィルとはベートーヴェンの交響曲全曲を演奏し、これを録音するなど深い信頼関係を築いている。

icon-youtube-play アンドリス・ネルソンス

NHKのテレビ中継では会場のムジークフェラインザール(楽友協会ホール)前に特設スタジオを設けていた。幕間のトークは局のアナウンサーと女優の草笛光子、中谷美紀、またウィーンフィル団員のヴァイオリニスト、ウィルフリート・和樹・ヘーデンボルクをゲストに迎えていた。和樹氏は最近兄弟でのレコーディングも多いので、名前と顔はもちろん知っていたが、こんなに日本語が上手だとは知らなかった。彼によるとネルソンスとは同世代だそうで、音楽的にも感覚的にも共有する部分が大きいとか。

icon-youtube-play ヘーデンボルク兄弟

さて、これだけ全世界が注目するコンサートとなったこともあり、プログラムは毎年趣向を凝らしている。当然ウィンナ・ワルツが中心だが、2020年は生誕250年を迎えるベートーヴェンをフィーチャーしているのも特徴。その中で「12のコントルダンス」は舞曲だが、後に有名な交響曲第3番「英雄」のモティーフともなるフレーズが隠れていたりする。またシュトラウスのワルツ「抱き合え、もろびとよ」はそのタイトルからもイメージされる通り、交響曲第9番「合唱」の歌詞にも登場するシラーの詩がもとになっているとか。そんな解説を聞きながら本番のコンサートが始まった。

アンドリス・ネルソンスも青年指揮者のイメージが強かったが、こうして見るとかなり貫禄がついてきた感がある。体格もかなり立派になったし、髭をたくわえたせいもあるのかもしれない。仕事柄彼の音源は録音でいくつも聴いているが力強くしっかりとした骨格を持ちながら柔軟な音楽が特徴。それはここでも発揮されていた。もちろん伝統と格式を誇るウィーンフィルの演奏だから〈優雅な音楽〉といった部分もあるのだが、ネルソンスの勢いのあるアグレッシヴな指揮振りは更にそこに肉厚な印象を与えている。途中、トランペットを吹きながら指揮をしていた場面もあったが、彼は音楽キャリアの始めではトランペットを学んでいたとか。画面で見るとウィーンフィルも幾分世代交代をしている印象を受ける。団員の和樹氏が言うようにネルソンスと年代の近い奏者も多いのかもしれず、だとしたら共有する感覚も、その音楽にもシンクロするところが大きくなるのだろう。

当然女性の奏者も何人か見られる。つい最近までウィーンフィルは男性奏者しか認めていなかった。しかし、ウィーンの伝統の音楽を継承するのに男性でなければならない、というのはやはりおかしい。2011年からはブルガリア出身で初の女性コンサートマスター、アルベナ・ダナイローヴァもいる。また150人近い団員の一割が女性奏者となった。優秀な演奏家であれば性別などは当然関係なく選ばれるべきである。とかくウィーンの音楽事情は伝統の名の下に時代錯誤になりがちだったが、近年は改革されつつある。これも時代の流れなのか。

icon-youtube-play アルベナ・ダナイローヴァ

テレビ中継は映像も工夫を凝らしている。ラジオとテレビという違いはあれど、同じ制作側としては毎年興味深い。ウィンナ・ワルツはもちろん舞曲なので、個人的にはウィーン国立バレエの踊りが見られるのも嬉しい。今年はベートーヴェンが遺書を書いたことで有名なハイリゲンシュタットの屋外でのバレエシーンもあった。そのロケーションに合わせて女性ダンサーが帽子を被り、犬を連れて散歩する、といった演出もあり、衣装もドットや花柄のドレスを纏っていて、足元はフラットなバレエシューズ。このまま街中でも着られそうな素敵な組み合わせだった。いつも不思議なのは収録している部分もあると思うのだが、どうやって音楽と合わせているのだろうか?

1曲目のアンコールは必ず「美しく青きドナウ」で、冒頭指揮者と団員たちの新年の挨拶が入る。ネルソンスはここでも腕を大きく振って指揮をしていた(!)。そして最後は「ラデツキー行進曲」。客席も一緒になって手拍子をするのは毎年変わらない楽しさだ。

icon-youtube-play ラデツキー行進曲

新年はいつもウィーンフィルとともにやってくるのである。

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