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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

ウィーン・フィル来日公演2021

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、大手楽器店に就職。クラシック音楽ソフトのバイヤー時代にラジオにも出演。その後に制作会社を経て、現在はフリーのラジオディレクターとして番組の企画制作に携わる。番組連動コラムや大学でゲスト講師をつとめるなど幅広く活動中。

この秋は緊急事態宣言が明けたこともあり、日本のクラシックコンサートも徐々に活況を呈してきた。それでもまだ海外のオペラやオーケストラ団体などの来日は限られているが、昨年に引き続き、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団だけは予定通り日本にやってきた。指揮は今年80歳を迎えた巨匠リッカルド・ムーティである。

ムーティは4月の「東京春音楽祭」でも敢然と来日して、お得意のヴェルディのオペラ「マクベス」の演奏会形式を指揮するだけでなく、オペラ・アカデミーと称して作品解説や若手演奏家にレッスンする様子もネットで配信され、その情熱的な指導と圧倒的な指揮で素晴らしい感動を与えてくれた。それが忘れ難く、私は今年もサントリーホールの公演を聴きに行った。

今回の来日は11月3日文化の日、東京のサントリーホールで始まり、名古屋、姫路、大阪、再びサントリーホール、とほぼ連日に渡って7回の公演。プログラムはAがモーツァルトの交響曲「ハフナー」、シューベルトの「グレイト」、Bがシューベルトの「悲劇的」、ストラヴィンスキーのバレエ「妖精の接吻」からのディヴェルティメント、メンデルスゾーンの「イタリア」。私はスケジュールの都合もあったが、ウィーン・フィルの持ち味がより優っている、しかも4月の東京春音楽祭で聴けなかったムーティお得意のモーツァルトを聴きたかったのもあり、王道である11日のプログラムAを選んだ。

サントリーホールの座席は満席。昨年はまだコンサート会場に足を踏み入れることを躊躇する人も多かった印象だが、ワクチン接種もほぼ完了した現在、それに比べると、安心感もあるのか高齢の方の比率が高かったような気がする。一方で小学生くらいの子供を連れた母親などもいた。チケットもかなりの高額だが、こんな幼い頃からウィーン・フィルのライヴを聴くことができるなんて、贅沢だなぁ、と心の中で思った。というように昨年より明らかにヴァラエティに富んだ客層がやってきていた。

icon-youtube-play ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団2020

楽団員が黒いマスクを着けて入場するとそれだけでスタイリッシュに見えてしまう。やや遅れてそこにまたダンディなムーティが登場。一段と大きくなった拍手で客席の期待が一気に高まる。

モーツァルトの交響曲第35番「ハフナー」第1楽章はニ長調の明るい色彩と堂々としたオクターヴの主題で始まる。弦楽と管楽の絶妙なバランスを持った完璧なアンサンブル。それはウィーン・フィルならではの特別な響きを持っていた。やはりこの醍醐味は国内のオーケストラにはない魅力だ。ところが第2楽章に差し掛かったあたりだっただろうか、後ろの席で小声で会話する人がいた。さすがに耳障りな感じがしたが、すぐにやめたようなので私はそのまま最後までモーツァルトに集中した。

休憩に入ったところで、また後ろで声がした。今度は男性が「演奏中に喋るのはやめて下さい。うるさいです」と先程の女性にはっきりクレームを付けていた。その気持ちは大いにわかる。少なくともこのコンサートチケットは通常で購入したら3万円以上はする。一般の人にとって決して安い値段ではない。皆、このコンサートにそれだけの価値を期待して聴きにきているわけなので、彼女の行為はやはりマナー違反だと言わざるを得ない。しかしそのクレームに対して女性は、ホールのレセプショニストに、注意をされたので席を変えたい、と言うようなことを申し出ていたようだった。事情があったのかもしれないが、この一件で私も含めて周りにいる人は高揚していた気分が少し萎んでしまったことは否めない。

休憩時間で何とか気を取り直す。後半はシューベルトの交響曲第8番ハ長調「グレイト」。冒頭はホルンのユニゾンから始まる。この柔らかな響きがまたいかにもウィーン風。要所要所でシューベルトらしい大胆な転調やリズムを実に自然に聴かせる演奏に、うっとりと聴き入ってしまった。しかしさすがの彼らも連日のコンサートで少し疲れもあったのだろうか、客席の全てを飲み込むような集中力は昨年より少なかった気がしないでもない。それはモーツァルトも然り。もちろんそれはウィーン・フィルとしては、という非常に高いレヴェルでの話。客席の意識の高さみたいなものも影響しているのかもしれない。特に緩徐楽章は美しいものの、有機的なメリハリは少なかった。彼らにとって身体に馴染んだ楽曲であることで余裕があり過ぎたのだろうか。王道過ぎるプログラムが指揮の存在感をやや薄くしてしまったようでもあり、残念。それでも「グレイト」の終楽章では力強いコーダへの自発的エネルギーと、決して品位を失わないラストに、世界一流の伝統芸を目の当たりにしたのであった。

アンコールは「皇帝円舞曲」。ムーティは客席に向かってアナウンスするサービスも満点。さすが本場のウィンナ・ワルツのリズムには会場で起きたちょっとしたトラブルも全て払拭する魅力に満ちていた。

icon-youtube-play リッカルド・ムーティ指揮ニューイヤーコンサート2021

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Comments

  1. 中野信也 - 2021年12月1日 at 4:56 PM -

    とても参考になりました。