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Column Feature Tweet Yoko Shimizu

音楽の最前線

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

フリーランス・ラジオディレクター。TOKYO FMの早朝の音楽番組「SYMPHONIA」、衛星デジタル音楽放送ミュージック・バードでクラシック音楽の番組を多数担当。「ニューディスク・ナビ」「24bitで聴くクラシック」など。趣味は料理と芸術鑑賞。最近はまっているのは筋トレ。(週1回更新予定)

現代音楽というと大抵の人が思い浮かべるであろう、難解でガーガーキーキーする音がひしめいている調性のない音楽、というイメージは最近大分払拭されているのではないかと思う。調性音楽が形を失くし始めたのは既に後期ロマン派、ワーグナーあたりからと考えると、それから150年以上も経っているわけで、そもそもどこからを現代音楽と呼ぶのか、現代音楽とは何か、という定義自体ナンセンスなことのようにも感じる。2018年も終わりを迎えようとしている今、クラシック音楽はかなり広範囲になり、カテゴライズするにはあまりにも多様化しているのである。

ここに一枚のディスクがある。「MUSIC FUTUREⅢ」と名付けられたアルバムは同名のコンサート・シリーズのライヴ録音だ。タイトルからもわかるようにこのシリーズは2014年から始まって3回目のもの。中心となっているのは映画音楽などの世界で活躍する作曲家、久石譲である。宮崎駿監督や北野武監督の作品の音楽でも知られる久石だが、近年はいわゆるクラシック音楽のレパートリーを指揮する指揮者としての活動も活発に行なっている。ベートーヴェンの交響曲を指揮したディスクも、意外と言っていいほど気を衒わない、率直で自然な音楽作りでとても好ましかった。

icon-youtube-play 久石譲指揮ナガノ・チェンバー・オーケストラ

そんな久石が主催しているこのライヴシリーズは現代に作られた優れた音楽を紹介する趣旨で始まった。敢えて「現代音楽」と呼ばないところがポイントであり、彼のルーツともいえるミニマルミュージックをメインにしたプログラムだ。このミニマルミュージックとは短い音型を繰り返し用いて構成した音楽のこと。1960年代頃アメリカで生まれ、テリー・ライリーやスティーヴ・ライヒなどがその中心人物となった。反復音楽とも呼ばれ、繰り返しの中で音をずらしたり変化を与えることで全体を発展させていく作曲技法は「現代音楽」のムーヴメントの一つではあるが、発想の源はガムランなど伝統的な非西洋圏の音楽である。その後ヨーロッパへと広がりを見せていくのだが、考えてみると、同じフレーズを繰り返して変化させていく手法で思い当たる最も有名な曲はあのラヴェルの「ボレロ」だ。一つの作曲のアイディアが生まれ、それが時代の中で文化や空気を取り込みながら発展していく。その中の一つの潮流がミニマルミュージックなのだと言える。

icon-youtube-play ラヴェル:ボレロ

さて、そのライヴシリーズ「MUSIC FUTUREⅤ」が先日行われ、私もよみうり大手町ホールへ聴きに行った。客層が通常のクラシックコンサートとは少し違って比較的若い人が多い。一緒に行った20代若手ディレクター曰く「白い頭の人が少ない」とのこと。また今回2回目となる新たな才能を発掘する「Young Composer’s Competition」の受賞作品も発表された。受賞したのは澤田恵太郎の「時と場合と人による」。その作品がその場で初演されるというなかなか意欲的なコンサートである。その審査員、作曲家の西村朗、脳科学者の茂木健一郎などの講評の他、合間には今回多く紹介された作曲家、デヴィッド・ラングと久石譲のトークセッションもあった。

icon-youtube-play MUSIC FUTURE Vol.5(久石譲インタビュー)

デヴィッド・ラングは「マッチ売りの少女の受難曲」でピューリッツァー賞音楽部門を受賞したことでも知られるアメリカの作曲家。久石と同様に数々の映画音楽を手掛けるなど、活躍している。私がラングの音楽をそれと意識して聴いたのは日本でも公開された「Youth(原題)」という映画だった。「ヴェニスに死す」の現代版のようなストーリーは老齢の作曲家が主人公で、彼が訪れる老いの中で様々な思いと人生に向き合う。彼が作曲する劇中での音楽もラングが担当していた。「Simple Song」というストーリーの中でも重要な楽曲をソプラノ歌手スミ・ジョーが彼女自身として出演し歌った。また劇中で流れる「Just」という曲も女性ヴォーカルで歌われるのだが、今でも時々聴くほど私のお気に入りである。

icon-youtube-play David Lang:Just

ラングの曲はポストミニマルと言われることもあり、とても聴きやすい。私はどこかメロディアスな、ヴォーカルを使った楽曲に彼らしさを感じる。今回もチェロと女性ヴォーカルのための作品「prayers for night and sleep」が印象深かった。歌詞のテキストはラング自身がインターネット上からランダムに拾って来た言葉を集めたという。こうした手法も現代ならではの感覚だが、単なる言葉の羅列が音楽によってそれぞれ意味を持って聴こえるのは不思議なものだ。またチェロのマヤ・バイザー、ヴォーカルのモリー・ネッターの2人の奏者がこの世界観を見事に表現していた。

「現代音楽」ではなく、現代に作られた音楽。ロックもポップスもそうした音楽だとするならばクラシック音楽の中の「現代音楽」だけが特殊なものとして置き去りにされがちである。そこからポストクラシカル、ポストミニマルといった言葉も生まれてきているが、あらゆる音楽の中にやはり心動かされる圧倒的なものがある。久石譲の取り組みは音楽の最前線であり、垣根を超えて若い人の心を捉えつつある。

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