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『ワルキューレ』オペラ談義

YOKO SHIMIZU COLUMN


ラジオディレクター清水葉子コラム

清水葉子COLUMN
RADIO DIRECTOR 清水葉子

音大卒業後、楽器店勤務を経てラジオ制作会社へ。その後フリーランス。TOKYO FMで9年間早朝のクラシック音楽番組「SYMPHONIA」を制作。衛星デジタル音楽放送ミュージックバードではディレクター兼プロデューサーとして番組の企画制作を担当。自他ともに認めるファッションフリーク(週1回更新予定)

最近オペラにご執心の構成作家の友人、K女史から「明日の日曜日に『ワルキューレ』を観に行かない?」と連絡が来た。

そう、METライブビューイングの今季9作目『ワルキューレ』が金曜日から公開になっていた。以前と違って現在は金曜日が初日になっていて、上映期間も通常一週間なので、うっかりしているとすぐに終わってしまう。しかも4月から私の担当番組は金、土曜日に集中することになってしまい、平日にもコンサートが入っていたりすると、数時間を捻出するのが難しく、以前はシーズン殆どの演目を観ていたのだが、このところご無沙汰していた。しかも『ワルキューレ』となると5時間コース。半日費やすことになるが、ロイヤル・オペラのライブビューイングでも同じ『ワルキューレ』を年明けに鑑賞していたので、これと比較するのも一興だと思っていたところではあった。えいやっと気合いを入れて誘いに応じることにした。

icon-youtube-play METライブビューイング「ワルキューレ」2019

K女史と私は家が近いこともあって二子玉川の映画館でMETライブビューイングを観ることが多い。ここは午前10時からの上映しかない。近所とはいえ、10時に映画館に到着するには9時半のバスに乗らなくてはならない。前日の土曜日は収録と編集でクタクタな状態で夜遅く帰宅していたので、コンディション的にはあまり良好とはいえない。疲れを残していると寝てしまう、という心配もある。ワーグナーのオペラはなにしろ長いので、こうなると体力勝負だ。心身ともに整えられた状態でないと本来は鑑賞してはならないのだ。

以前にも軽く触れたが、上演に4日かかるという「ニーベルングの指環」4部作のうちの2作目に当たるのが『ワルキューレ』。途方もなく長大なオペラである。全てを支配する力を持つ指環と、それをめぐる英雄と神々、人間たちの壮大な叙事詩。現代では単独で上演されることも多く、また楽劇というだけあって演劇的要素も強く、演出によって様々な舞台が作られている。私などはストーリーの全体像も掴みきれないままにバラバラと演目を観ているので、最初はその長さと相まってさっぱりワーグナーの魅力がわからなかったのだが、素人の感想として言わせていただくと、この「ニーベルングの指環」は『ワルキューレ』から観るのが最もわかりやすいような気がしている。

それでも第1幕、第2幕は動きも音楽も少し停滞するので初心者には退屈しがちである。今回二子玉川の映画館でも第2幕が終わったところで帰ってしまった人がいた。K女史と二人で「ここからが面白んですよ」と、よっぽど教えてあげようかと話した。第3幕はあの有名な〈ワルキューレの騎行〉で始まる。このメロディーは映画やCMなどでもたくさん使われる、誰もが耳にしたことがあるだろう、あの勇ましくキャッチーなメロディーだ。

演出はかなり重要なポイントだが、今回のMETではロベール・ルパージュ。「シルク・ド・ソレイユ」の舞台も手がけるという彼の舞台は、巨大な回転する板が場面によって様々に形を変える。この大掛かりな装置はMETならではのスケールだ。そこにプロジェクションマッピングで映像を映し込み、時に岩山となり、ワルキューレの戦乙女たちの騎馬となり(ちょっとボートを漕いでいるようにも見えたが)、燃え盛る炎となる。この巧みな場面転換が超現実的な物語の進行と、複雑な人物たちの関係性を理解するのに非常に役立っている。最後の場面では視点が上から俯瞰するような具合になっており、これも見事に映像的で、ここから『ジークフリート』へと続く物語を予感させ、印象深いラストだった。

icon-youtube-play METライブビューイング「ワルキューレ」2013

出演者たちの力量が素晴らしい。禁断の愛を結ぶジークムントとジークリンデの兄と妹は貫禄の演技と歌声で聴かせたスチュアート・スケルトンとエヴァ=マリア・ウェストブロック。フンディング役のギュンター・グロイスベック、神々の長ヴォータンのグリア・グリムスリーは二人とも顔立ちが繊細なのもあり若々しい印象。またクリスティーン・ガーキーが勇ましいながらも艶のある歌声のせいか、どこか可憐で娘らしいブリュンヒルデを演じる。オープニングのインタビューで「最高の歌手陣」とMET総裁のピーター・ゲルブが語っていたが、まさにその通りで、充実の歌唱があってこその『ワルキューレ』だ。指揮はフィリップ・ジョルダン。ワーグナーの聖地バイロイト音楽祭でも指揮をしているだけあって、安定感がある。年明けのロイヤル・オペラの『ワルキューレ』の指揮はアントニオ・パッパーノで、こちらは重厚感抜群のサウンドだったが、それに比べるとメリハリがあり、〈ワルキューレの騎行〉などは、より軽やかに疾走するイメージ。総合的には演出、歌手陣、音楽、と三拍子揃った隙のない舞台となっていたMETにやや軍配が上がる、というところだろうか。

icon-youtube-play ロイヤルオペラ・シネマシーズン「ワルキューレ」2018

観終わると午後3時。二子玉川のカフェでお茶をしながら、ワーグナーの世界に目が開き始めた私とK女史のオペラ談義が始まるのだった。

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